弘前のりんご農家が育てているもの
弘前の秋が、少しずつ深まっています。
田んぼには黄金色の稲穂が広がり、その向こうには、大きな岩木山。
そして、りんご畑に目を向けると、緑の葉の間から赤く色づき始めた実が、ぽつり、ぽつり。
この景色を見ると、「今年もりんごの季節がやってきたな」と感じます。
私たちは、赤く実ったりんごを見ると、「美味しそうだな」「もう秋なんだな」そんなふうに思います。
でも、りんご農家さんがこの景色を見る目は、少し違うのかもしれません。
「今年はどんな色になっただろう」「実につき方はどうだろう」「木は元気に育っているだろうか」
秋に実った一個のりんごの向こう側には、農家さんが木と向き合ってきた長い時間があります。
雪の中から始まる、りんごの一年
津軽の冬。
雪が積もるりんご畑で、お正月が過ぎる頃から始まる仕事のひとつが、剪定です。
葉を落とした木を見ながら、枝を一本一本見極めて切っていきます。
どんな枝を残すのか。どんなふうに木を育てていくのか。
その先に実るりんごを思い描きながら、木の形を整えていきます。
真っ白な雪の中で行われるこの作業が、秋の実りの始まりです。
春は、花だけを眺めてはいられない
やがて春になると、りんごの木に花が咲きます。
白や淡いピンクの花が一斉に咲くりんご畑は、とても美しい風景です。
けれど、この時期も農家さんにとっては大切な仕事の季節。
たくさん咲いた花の中から必要なものを残す敵花をしたり、りんごの実をつけるための受粉作業を行ったりします。
そして、りんご畑ではマメコバチの力を借りて受粉を行うところもあります。
小さなハチが花から花へ飛び回り、人の手だけではなく、生き物の力も借りながら、秋の実りへとつないでいくのです。
夏は、一つひとつの実に手をかける
花が終わり、小さな実が付くと、今度は実すぐり。
一つの枝にたくさんついた実の中から、木の状態や実のつき方を見ながら、育てる実を選んでいきます。
そして、袋かけなどの作業をしながら、秋の収穫に向けてりんごを育てていきます。
夏のりんご畑で行われる、もうひとつの大切な作業があります。
それが、実を回すこと。
りんごは、、木についている向きによって日光が当たりにくい部分があります。
そこで、一つ一つの実をくるりと回して、できるだけ日光が当たるようにしていきます。
秋に真っ赤になったりんご。
その色は、太陽だけがつくっているのではありません。
一つの実に目を向け、手をかけ、、少しずつ向きを変えてきた農家さんの仕事も、その赤い色につながっています。
そして、秋。りんごの季節へ。
夏の緑の中で育ったりんごは、少しずつ色づいていきます。
そして迎える収穫の季節。
弘前では、品種によって収穫時期が異なり、秋の間、様々なりんごが旬を迎えます。
私たちが手に取るのは、一個のりんご。
けれど、その一個には、雪の中で始まった剪定。春の花と受粉、夏の実すぐりや袋かけ、そして実を回す作業。
一年を通して木を見つめてきた、農家さんの時間が詰まっています。
赤いりんごの向こう側
弘前のりんご畑を眺めていると、りんごだけではなく、この土地で季節とともに暮らしてきた人たちの姿も見えてくるような気がします。
雪の中で枝を切り、春には花を見守り、夏には一つ一つの実に手をかけ、秋には収穫を迎える。
そして、収穫が終われば。また次の冬へ。
りんごの木と人が、一緒に季節をめぐっていく。
そんな積み重ねが、今の弘前の風景をつくっているのかもしれません。
黄金色の稲穂。
大きな岩木山。
そして、緑の葉の中に見える赤いりんご。
秋の弘前を訪れたら、是非いとど、りんご畑を眺めてみてください。
赤いりんごの向こう側には、一年をかけて木と向き合ってきたひとたちの時間があります。
そのことを知ると、いつもの弘前の風景が、少し違って見えてくるかもしれません。