今週、弘前城で大きな節目を迎えます。
石垣修理のために移動していた弘前城天守が、いよいよ元の場所へ戻ります。
2015年に始まった弘前城天守の「曳屋」。
そして今回行われるのが、その天守を元の位置へ戻す「曳戻し」です。
お城を動かす。
それは、とても大がかりで特別なことです。
けれど弘前では、実は昔から「建物を動かして残す」という方法が使われてきました。
「壊す」のではなく「動かして残す」
「曳屋」とは、建物を解体せず、そのままの状態で別の場所へ移動させる工法です。
建物の下にレールなどを設置し、建物全体を少しずつ移動させます。
もちろん、どんな建物でも簡単に動かせるわけではありません。
建物の状態を調べ、構造を確認し、綿密な計画を立て、たくさんの人の技術によって少しずつ動かしていきます。
なぜ、そこまでして動かすのでしょう。
それは、
「壊してしまうのではなく、建物そのものを残す」
という選択があるからです。
弘前には「曳屋で残された建物」がある
弘前には、曳屋によって歴史を受け継いできた建物があります。
その代表のひとつが、現在の青森銀行記念館です。
旧第五十九銀行本店本館として建てられたこの建物は、昭和40年代、新しい銀行建物を建設する際に取り壊される計画がありました。
しかし保存を望む声もあり、建物を解体するのではなく、曳屋によって移動させて保存する道が選ばれました。
つまり、建物を残すために、建物のほうを動かしたのです。
そして、弘前を訪れる観光客に人気のスポットと言えば、弘前公園のすぐそばにあるスターバックスもその一つ。
ここで使われているのは、旧第八師団長官舎として建てられた歴史的な建物です。
現在はカフェとして多くの人が訪れていますが、そこには、弘前の歴史がちゃんと息づいています。
「古い建物だから、昔のまま保存する」のではなく、今の暮らしの中で新しい役割を持たせながら残していく。
そんな弘前の街の姿を、観光の途中でも感じることが出来ます。
「古いから壊す」のではなく、
「古いからこそ、どうすれば残せるのだろう」と考える。
そんな発想が弘前の街のあちこちに残っているのです。
弘前城も、建物を残すために動いた
今回の弘前城天守の曳屋も、石垣の修理を行うために天守を移動させる必要があったことから始まりました。
天守を一度動かし、石垣を修理し、そして今度は元の場所へ戻す。
長い時間をかけて、歴史的な建物を未来へつないでいくための大きなプロジェクトです。
普段は動くことのないお城が動く。
それだけでも、とても珍しい光景です。
でも、その背景には、
「この建物をこれからも残していきたい」
という考えがあります。
曳屋だけじゃない。弘前には「残していく」建物がたくさんある
弘前の魅力は、曳屋で建物を残してきたことだけではありません。
街を歩いてみると、さまざまな時代の建物が、今も私たちの暮らしの中に残っています。
たとえば、建築家・前川國男が手掛けた弘前市民会館や弘前市役所などの近代建築。
明治・大正の洋風建築や教会。
そして、かつて酒造工場として使われていた煉瓦倉庫を活用した弘前れんが倉庫美術館。
それぞれ残し方が違います。
そのまま保存するもの。
現在も公共施設として使われているもの。
役割を終えて新しい場所として生まれ変わったもの。
共通しているのは、
過去のものを過去だけにしないこと。
今の暮らしの中で大切にしながら次の時代へつないでいることです。
弘前の「残す」は、未来へ手渡すこと
古いものを残すというと、昔の姿をそのまま守ることを想像するかもしれません。
でも弘前の街を歩いていると、「残す」ということは、もっと柔軟なものなのだと感じます。
建物を動かす。
使い続ける。
新しい役割を与える。
そして、次の世代へ渡していく。
そこには、先人たちが残してくれたものを大切にしながら、自分たちの時代でも新しい価値を加えていこうという姿勢があります。
だからこそ、弘前の街
には、昔の建物と今の暮らしが自然に同居しているのかもしれません。
今週、弘前城がもう一度動きます
今週行われる弘前城天守の曳戻し。
ただ「お城が動く」という珍しいイベントとして見るのももちろん楽しいでしょう。
でも、
「なぜ、動かしてまで残すのだろう?」
そんなことを少し考えながら見てみると、弘前城の姿がいつもとは違って見えるかもしれません。
弘前には、建物を動かして残してきた歴史があります。
そして、建物を使い続けながら、街の記憶を次の時代へつないできた歴史もあります。
今週、弘前城がもう一度動きます。
それは、過去を振り返るだけではなく、
「大切なものを、これからどう未来へつなげていくか」
を、私たちに見せてくれる出来事なのかもしれません。
弘前へお越しの際は、是非お城だけでなく、街に残るさまざまな建物にも目を向けてみてください。
一つひとつの建物の中に、弘前の人々が大切にしてきた時間が、静かに息づいています。
そして旅の夜は、ゆるりでゆっくりと。
歴史ある街をあるいた一日の終わりに、弘前の「残していきたいもの」に思いを馳せながら、静かな時間を過ごしていただけたら嬉しいです。